対面 -ライオンさんのこと 4
斎場につくと、家族控室へ向かった。
Tさんの荷物を運び込む。
祭壇はもう出来上がっていて、棺はその前に安置されていた。
会場に葬儀関係者のMさんがいた。
長崎に向かう前から、1番私が恐いことがあった。
遺体と対面することであった。
恐いならば、見なければよいのだが、顔も見ずにお別れするのは自分の何かが許さなかった。
今思えば、本当に死んでしまったのか、確認がしたかったのだと思う。
そうじゃないと、踏ん切りがつかないと。
それで顔を見ておくことは、自分の責任だと思っていた。
恐いというのは、遺体のことではなかった。
自分が耐えられるかが分からなかった。
父が病気になった時は、看護師の説明を聞くだけで自分が倒れそうになった。
実は、注射を見るだけでも倒れる。
何故か年々小心者になる。
遺体を見て、倒れてしまうのではないかと思った。
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Mさんの横に立ち、棺の方を見た。
「遺体のお顔は、見ることは出来ませんか」と尋ねた。
「私が警察から説明を受けたとさね。やっぱり頭の損傷が一番ひどかとって。
だから、奥さんに見せないほうがいいって。顔も包帯でぐるぐるまいてあるとって。
…でも、見ますか。棺を開けられますよ。」
と言って、Mさんは前に進もうとした。
「あー、いや、うん。どうしようか…。」
どうするの?というようにMさんが私の顔を見ている。
「やめとく?やめとけば?」
「……いや、見せてください。」
「(神さま勇気を下さい)」と祈って前に進んだ。
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さすが業者と言うべくか、Mさんは物怖じしないで棺を開ける。
いくら葬儀関係者でも、嫌だなぁ、と思う人もいるかもしれないけれど。
神さまの摂理というべきか、こうして葬儀まで教会関係者に関わって頂けるのは、本当に心強く有り難い。
棺の蓋を開けると、通常顔のところまで白い布団がかけられていた。
「ほらね」
「あぁ…そうか…」
Mさんが蓋を戻した。
「その下は…包帯ですか?」
「見る?」
「うーん、えー、うー…」
そう言う間に布団をめくろうとしている。
「はい、お願いします、ハイ」
棺の観音開きの蓋を開け、布団をわずかにめくると、さらに下には別の布が重なっており、何も見えなかった。
どこが顔なのか、何なのか、かなり分厚く覆ってあるようだった。
さらには、それがビニールの袋に覆われていた。
「遺体袋に入っとっとさね。どうする?」
「あぁ、もういいです。もう、こんなになってるんですね。ここまででいいです。」
布団を戻して棺を閉じた。
Mさんと2人で棺を前にお祈りをした。
お祈りの間に息子さんが到着した。
息子さんも同じことを考えていたのか、棺の中を見ることが出来ないかと尋ねられた。
「ぐるぐるに巻いてあって…」
「警察がね…」と二人して同じような事を言って、同じように、棺を開けた。
息子さんも、布団をめくったところで、中を見て、
「いいです」と言われた。