空 -ライオンさんのこと 11
火葬場から食事の会場へと移動し、会食を済ませた。
もう一度斎場へ戻り、そこで一同解散だった。
ご家族は一緒の車で、私は教会関係者のSさんの車で先にマンションへ戻った。
車中Sさんと話した。
Sさんは別の教会の会員だが、縁あってTさんと関わりが出来、ずっと近くにいてくれた。
福祉関係のお仕事をしているので、これからこまめにTさんの所に行くから、と言ってくださった。
本当に多くの方にお世話になる。
マンションに到着すると、すでにご家族の方は帰り着いていた。
私が鍵を開ける、という話だったので、「門番はどこに行った」と笑われた。
ひとまず着替えた。
ご家族の方も次々に帰り着いては、畳の上にくつろいだ。
「お疲れ様でした」と互いに言い合った。
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腰を据えて休む前に、私にはやっておきたいことがあった。
今日の、夜9時には大阪に向けて発たなければならない。
もう残されている時間は4時間余りなのだ。
日が暮れる前に、
ライオンさんがどこに飛び降りたのか、場所を確認したかった。
一体どこで最期を迎えたのか。
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電話をしてくると言って、外に出た。
実際電話する必要があったので、電話をしながら、外の廊下を歩き回った。
一体どこなのか。
手すりの下を確認して回った。
住居前を通り過ぎ、非常階段を下る。
やっぱり見当たらない。
電話で話しながら、階を下った。
ふと、手すりの1番外れの所まで近寄った。
見下ろすと、花束があった。
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階段を駆け下りた。
電話を切って、ゆっくりと花束が見えたと思われる所へ近づいた。
てっきり柵かなにかで近づけないかと思ったが、エントランスは開けていた。
花束はすぐ先にあった。
「(ここだ…間違いない。)」
足元が少しぐらついた。
祈ったが、何を祈ったのか覚えていない。
エントランスは思いの外広かった。
見上げると切り立つように、最上階までのバルコニーが見えた。
一体どの辺りか…。
驚くほど、何の痕跡もなかった。
じっと地面を見ていると、ブラシのようなものでこすった跡がコンクリートに沢山付いていることに気がついた。
現場の跡をきれいに掃除したのだろう。
「……」
白いところだ…。
ふと、頭に浮かんだ。
白いところ…ブラシで1番磨いてある所だ。
急いで周りを見渡した。黒いところは少し磨くと、赤茶けている。
色はあちこちまばらだが、真っ白といえるようなところがあった。
その周りに、モップの跡が沢山付いている。
自分が立っているところのすぐ先。
ここだろうか。
その場所に立って空を見上げた。
バルコニーの位置も、ちょうどいいように思えた。
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次にエレベーターで最上階へ登った。
さっき確認した手すりの場所へ行った。
下を覗きこんで、間違いないと思った。
もう、後はなにを確認する力もなかった。
黙って後ろに下がると、うなだれてその場を去った。
どうして、自分はこんなことを1人でやっているのだろう。
どうして、私にこんなことが必要なのだろうか。