空 -ライオンさんのこと 11

火葬場から食事の会場へと移動し、会食を済ませた。

もう一度斎場へ戻り、そこで一同解散だった。

ご家族は一緒の車で、私は教会関係者のSさんの車で先にマンションへ戻った。

 

車中Sさんと話した。

Sさんは別の教会の会員だが、縁あってTさんと関わりが出来、ずっと近くにいてくれた。

福祉関係のお仕事をしているので、これからこまめにTさんの所に行くから、と言ってくださった。

本当に多くの方にお世話になる。

 

マンションに到着すると、すでにご家族の方は帰り着いていた。

私が鍵を開ける、という話だったので、「門番はどこに行った」と笑われた。

 

ひとまず着替えた。

ご家族の方も次々に帰り着いては、畳の上にくつろいだ。

 

「お疲れ様でした」と互いに言い合った。

 

*********

 

腰を据えて休む前に、私にはやっておきたいことがあった。

 

今日の、夜9時には大阪に向けて発たなければならない。

もう残されている時間は4時間余りなのだ。

 

日が暮れる前に、

ライオンさんがどこに飛び降りたのか、場所を確認したかった。

 

一体どこで最期を迎えたのか。

 

********

 

電話をしてくると言って、外に出た。

実際電話する必要があったので、電話をしながら、外の廊下を歩き回った。

 

一体どこなのか。

手すりの下を確認して回った。

 

住居前を通り過ぎ、非常階段を下る。

 

やっぱり見当たらない。

 

電話で話しながら、階を下った。

 

ふと、手すりの1番外れの所まで近寄った。

 

見下ろすと、花束があった。

 

*******

 

階段を駆け下りた。

電話を切って、ゆっくりと花束が見えたと思われる所へ近づいた。

 

てっきり柵かなにかで近づけないかと思ったが、エントランスは開けていた。

 

花束はすぐ先にあった。

 

「(ここだ…間違いない。)」

 

足元が少しぐらついた。

 

祈ったが、何を祈ったのか覚えていない。

エントランスは思いの外広かった。

 

見上げると切り立つように、最上階までのバルコニーが見えた。

一体どの辺りか…。

 

驚くほど、何の痕跡もなかった。

じっと地面を見ていると、ブラシのようなものでこすった跡がコンクリートに沢山付いていることに気がついた。

 

現場の跡をきれいに掃除したのだろう。

 

「……」

 

白いところだ…。

 

ふと、頭に浮かんだ。

 

白いところ…ブラシで1番磨いてある所だ。

 

急いで周りを見渡した。黒いところは少し磨くと、赤茶けている。

色はあちこちまばらだが、真っ白といえるようなところがあった。

その周りに、モップの跡が沢山付いている。

 

自分が立っているところのすぐ先。

 

ここだろうか。

その場所に立って空を見上げた。

 

バルコニーの位置も、ちょうどいいように思えた。

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次にエレベーターで最上階へ登った。

さっき確認した手すりの場所へ行った。

 

下を覗きこんで、間違いないと思った。

 

もう、後はなにを確認する力もなかった。

黙って後ろに下がると、うなだれてその場を去った。

 

どうして、自分はこんなことを1人でやっているのだろう。

どうして、私にこんなことが必要なのだろうか。