遠くで -ライオンさんのこと 16

遠くで、雷が鳴っている。

身も入らない集会に出ながら、手帳を眺めている。

9月。

 

「西向く士(サムライ)小の月、って言うとよ」とライオンさんの声がよみがえる。

2月、4月、6月、9月、11月(十に一で士)は、他の月(通常31日)より日が少ないという意味だ。

 

だから、西向く士(サムライ)で覚えている。

9月は30日までだ。

 

気がつけば、ライオンさんに教えてもらったことが沢山あるのだ。

 

誰に教えてもらったかなんて、思い出しても深く考えることがなかった。

 

涙が出る。

 

以前、ある問題で道を誤りそうになったことがある。

自分の優柔不断で、気がつけば、とんでもない事になるところだった。

 

危ない所で、どうするべきか考えた時、ライオンさんの顔が脳裏に浮かんだ。

 

「ライオンさんがこの話を聞いたとしたら、喜ぶだろうか?」

 

答えは簡単に出た。

ライオンさんに聞かせられる話ではない。

それどころか、どれだけ悲しませるか分からない。

結果大変だったけれども、何とか対処することが出来た。

 

普段何も言わないライオンさん。

黙っていつも見守っていてくれた。

 

その愛にどれだけ支えられ、真っ当な生活を送るように訓練されていたかと思う。

 

そんな私のサムライはもう居ない。

 

どこに行ってしまったのだろう。