スピリチュアル・フォーメーションのカウンセリング手法11 番外編ディーンの悲しみ

撮影:Jerome Chi 提供:GATAC
撮影:Jerome Chi 提供:GATAC

話がずっと煮詰まっているので、ちょっと息抜きで、今日はM君の話をします。

リトリートの話の途中で出てきたディーン・◯ジオカ似のイケメン君です。髪型もディーン・◯ジオカ似なので、ここではディーンと呼びます。

ディーンは、学部を卒業したばかりなので、多分23歳か、もっと若いかもしれません。クラスの中では、典型的なお調子者と言った具合で、絶えず人を笑わせようとする、サービス精神旺盛な人です。

牧師家庭の子供さんで、兄弟は宣教師として働いている、とのこと。将来を期待されて、学んでいるディーン君。イケメンで、高身長で温かい家庭の子供で、周りから愛されるディーン。

 

並んでいると、何かものすごい賜物の不公平さを実感するのは私だけなのか。

 

そんなディーンが話す番が回ってきました。

 

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ディーン「うーん…僕は……なんだろう、いい子でいないといけないのが辛いんです。」

 

リーダー「いい子?」

 

「はい、その、父は牧師で、兄は宣教師で、僕も将来牧師になると期待されています。
もう一人、兄が居て、その兄は滅茶苦茶なんです。家を飛び出して、いろんな悪いことをして、その兄と僕はいつも比べられてきました。兄はあんななのに、お前はちゃんとしているって。」

 

「ふむ」

 

「いい子で居なきゃいけないと思って、いつも人の前で、家族の前でも彼らの期待に答えるように頑張ってきました。

でも…分からないんです、一体自分が誰なのか、何なのか、

いつも人の顔色を伺っている。

そんな自分に疲れるんです。」

 

「あなたはいつもにこにこしているわね。人を楽しませようとしている。

でも、本当は辛いのね。」

 

「はい。時々、えぇ、いや、時々はい。」

 

「時々じゃないのね?」

 

「…はい。」

 

 

「どう、自分のことを思うの?どう感じる?」

 

 

「…どうって…。」

 

 

「考えてみて。笑おうとしなくていいわ、あなたの問題よ、大事な問題なの。私はあなたのことを、一生懸命考えるわ。自分に向き合ってみて。」

 

 

「…本当は、自分が嫌いなんです。」

 

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私は耳を疑った。

 

この容姿端麗才色兼備が「自分を嫌い」?

 

ディーンの隣に座りながら、

私はきっとこんな顔をしていた。

 

何言ってんだこいつ、何言ってんだこいつ、何言....
何言ってんだこいつ、何言ってんだこいつ、何言….

こんな歩く才能みたいな男なのに、何を言っているんだ!

と、横面をグーパンチで殴りたくなった。

 

ディーンは続けた

「消えて無くなりたいって思います。疲れたって。期待が重すぎて、皆の期待に、父の期待に応えないとと思うと、期待に応えられないんじゃないっかって、すごく、辛くなるんです。

 

もっと自由になれるのかなって、思うんですけど、どうしたら良いのか分からない。

もうずっと、小さい頃からこうしてきたから、一体どうしたら良いのか。

逃げ出したい…。」

 

と言って、ディーンはポロポロ泣いていた。

 

そして、その横で私は、お前、何バカなこと言ってんだ!と殴りたかった。

 

「ディーンが居なくなったら、どれだけ神さまが悲しむかわからないのか。

こんなに居るだけで周りに喜ばれてるのに、それがわからないなんて、損なやつだなぁ!」

と、英語で言えなくてよかった。

 

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リーダー「ディーン、あなたはね、何もしなくても皆に喜ばれてるわよ。」

ディーン「そうかな」

メンバー「そうだよ」

リーダー「人を楽しませようとしなくていいのよ。あなたはいつもホストの方にいるわ。自分のことを置いてきぼりにして。」

ディーン「それが僕の役割だから…教会でも。」

メンバー「たとえそうしなかったとしても、べつに何も変わりはしないよ。僕は君を愛しているし、友達だ。」

ディーン「そうなの?」

メンバー「そりゃそうさ」

メンバー「何言ってるの、当たり前じゃない」

 

そうしてディーンはさめざめと泣くのでした…。

 

私は横で、やっぱり

この顔でした。

 

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考えてみると、あれですね。

人のことは、何言ってるんだ、どんなに愛されてるのかわからないのか、あなたが居なくなったら、どんなに周りが悲しむか、喜びが消え失せるか、わからないのか!!っていうことが、腹が立つほど分かるのですが、自分のことになると分からないんですね。

私は私のことを、居なくなっても別に何の問題もないね、と思っていましたが、きっと、いや本当にそうではなくて、これを読んでいるあなたも、もしも居なくなってしまうと、大変なショックを神さまと沢山の人に与える、大事な大事な人なんです。

居なくなっても困らない誰かではない。

どれだけ沢山の人が、あなたを通して笑顔をもらってきたか、そしてあなたが消えてしまうと、心に引きずっていつまでも、どこに行ったのか探し続ける人たちがたくさんいます。

近くに居て欲しい、って思っている人がたくさんいると思うんですね。

 

私は繋がっていれば良いのは神さまだけって思ってきましたね。

でも、大いに人間の不器用さも生きることが出来るようになれたらと思います。

神さまの愛というのは、とても未練がましいですね。

帰ってこない息子を、いつも探している神さまですから。息子の姿が見えたら、臆面もなく「美しい脚」を露わに走っていく父ですから。

 

不器用に、愛につながっていけたらと思うんですね。

未練がましく、かっこ悪く、傷つきながら、人の愛につなげてもらおうと思うんですね。