牧会カウンセリングとは何か 2 -牧会カウンセリングの区分
David G. Benner PhD, Strategic Pastoral Counseling: A Short-Term Structured Model.Baker Academic, 2003.
それでは引き続いて、パストラル・ケアとは何か、の続きから。
牧会の種類が区分された、この図の説明を続けていきます。
Benner, Strategic Pastoral Counseling.16p.Figure1を日本語私訳
昨日は上の図の、Christian Friendship(クリスチャンの交わり)、Pastoral Ministry(伝道)を説明しました。
Christian Friendship(クリスチャンの交わり)は、クリスチャンがもつ信仰を土台にした関係性、最も広義なものです。しかし、この関係性自体が、既に教会の働きの一種なんですね。パストラルケアは、関係性がもっと深化したものですが、クリスチャンの交わりを土台にして、最も効果を発揮することが出来る、とのことでした。
Pastoral Ministry(伝道)は、説教、集会、教会活動、リーダーたちの指導そのような、教会活動として、認識される活動全般ですね。牧会カウンセリングもこの中に入りますが、取り扱う内容は、より霊的、精神的な部分になっていきます。
では、残り3つ、Pastoral Care(牧会ケア)、Spiritual Direction(霊的指導(霊的形成))、Pastoral Counseling(牧会カウンセリング)です。
Pastoral Care(牧会ケア)
“Pastoral care is the gift of Christian love and nurture from one who attempts to mediate the gracious presence of God to another who desires, to one degree or another, to live life in the reality of that divine presence. Eschmann (2000) suggests that pastoral care includes three broad types of activities: blessing and healing, reconciliation and conversion, and sanctification and fellowship. More specifically, it includes such things as visiting the sick, attending to the dying, comforting the bereaved, encouraging reconciliation of the estranged, supporting those who are struggling or facing difficulties of any kind, nurturing and protecting the faith of those within the congregation, preaching, teaching, intercessory prayer, and administering the sacraments.”
Benner PhD, David G.. Strategic Pastoral Counseling: A Short-Term Structured Model (Kindle No.216-222). Baker Publishing Group. Kindle.
「パストラスケアとは、クリスチャンの愛と神の臨在を、それらを求めている人々に対して与えることで、実際生活の中で神あり方を生きることである。Eschmann (2000)はパストラルケアは、大きく次の3つの種類、祝福と癒やし、和解と悔い改め、聖化と交わりに分けることが出来ると述べている。より具体的に言うと、病人を訪問したり、死に臨む人に付き添ったり、遺族を慰めたし、離婚の危機にある夫婦の和解に努めたり、困難に直面している人をサポートしたり、そういう類の活動のことであり、会衆の信仰を説教や、指導、とりなしの祈りや聖礼典を通して養い育てることである。」
Benner、上掲書 (Kindle の位置No.216-222). Kindle 版日本語私訳
伝道のレベルととても似ていますが、対象が少数になってきています。個人的に接することで、信仰を支えたり、成長を助ける取り組みのことを指すようです。また、パストラルケアの働きは、時間が区切られている、ということも書かれていました。病気の時は、訪問している間、離婚の危機にある人を時は、2人をカウンセリングしている間、その時間が終われば、その牧会ケアからは一応離れることになります。パストラルカウンセリングが扱う内容は、もっと問題に焦点を当てた活動だそうです。
Spiritual Direction(霊的指導(霊的形成))
“Spiritual direction is “a prayer process in which a person seeking help in cultivating a deeper personal relationship with God meets with another for prayer and conversation that is focused on increasing awareness of God in the midst of life experiences and facilitating surrender to God’s will” (Benner 2002, 94).”
Benner, ibid (Kindle No.255-257). Kindle version.
「霊的指導とは”個人的な必要を祈る過程の中で、神との一対一の交わりを深めることによって、人生の中に働く神の存在に気がつくことであり、また、神の意志に身を委ねる祈りのプロセスである。」
上掲書、 (Kindle No.255-257)私訳
“Shea (1997) suggests that while both pastoral counseling and spiritual direction share a focus on faith development, they differ in their approach. Pastoral counseling seeks to help people reach mature faith, while spiritual direction seeks to help those with mature faith deepen such faith by living it out in the midst of life.”
Benner, ibid (Kindle No.273-276). Kindle version.
「Shea (1997) は牧会カウンセリングと霊的指導は、霊性の成長を促すという面で役割を共有しているが、それぞれ違うアプローチの仕方を持っていると述べている。霊的指導は私達が生活の只中で成熟した信仰を持つための、霊的な深化を促す役割を持つ一方で、牧会カウンセリングは人々が成熟した信仰に到達できるように支援する働きである。」
上掲書, (Kindle No.273-276).私訳
何か、この霊的指導と、牧会カウンセリングの意味がとても似ていて、読んでいて区別がつきませんでした。授業で、この2つの違いを質問したところ、牧会カウンセリングは、自殺防止や、アルコール中毒など、もっと具体的な問題を扱う、ということでした。とりあえず、次に進んで、全体を把握してみましょう。
Pastoral Counseling(牧会カウンセリング)
“Pastoral counseling is different from Christian counseling because the pastor is much more than a counselor. Pastors relate to those they counsel in a variety of ways, each reflecting one facet of the broad spectrum of pastoral responsibilities. Unlike the clinical counselor, whether Christian or non-Christian, the pastoral counselor does not have the option of restricting contact with those seen in counseling to the scheduled counseling sessions.”
Benner, ibid (Kindle No.294-297). Kindle edition.
「牧会カウンセリングは、クリスチャンのカウンセリングとは異なる。なぜなら、牧者はカウンセラー以上に対象者に関わるからである。牧師は牧会上の権限から、広く様々な角度で人々をカウンセリングすることが出来る。牧者によるカウンセリングは、普通のカウンセラーと違い(カウンセラーがクリスチャンであろうと、無かろうと)、接触を制限されていたり、カウンセリングの予約やセッションに制限されない。」
Benner, 上掲書 (Kindle No.294-297). Kindle edition.
“The term counseling is used, of course, in diverse ways, with advice about taxes, travel, nutrition, and many other matters all being called counseling.”
「カウンセリングという言葉は、勿論離婚、経済問題の相談、旅行、栄養管理、その他の多くの問題に関する相談事を指す。」
Benner, 上掲書 (Kindle No.303-304). Kindle版.
はい、というわけで…一応5つの牧会ケアの区分を紹介してみました。
何か、まだ区別が明瞭につかないところもありますが、実際やっていることがどれに当てはまるか考えてみると、案外明快に区分できるような気がします。
まだ私自身、牧会カウンセリングが一体どんなことを指すのか、漠然としているのですが、例えば今日ある人と、愛着障害について話しました。人間関係の距離感が、「全か無か」の距離感しか無くて、苦しんでいる人です。この方との話は、きっと、性格の問題を信仰の中でどう理解し、改善していくかということなので、牧会カウンセリングに当てはまるかもしれません。
昨日から何時間もかけて説明している、求道者の方との旧約聖書と新約聖書の神のあり方の違いに関する問答は、多分…伝道の部分かもしれません。
これらの中で、信頼関係や、信仰の成長を促している部分もあるかもしれないので、幾つかの役割(層)が混じり合うこともあるでしょう。
改めて考えてみますと、日本で私の所に持ち込まれていた相談というのは、クリスチャンの交わり⇒伝道までしか行っていない教会で起きている問題です。
クリスチャン同士の交わりがあり、伝道活動も活発だけれども、個々人への牧会ケア(牧師とメンバーの個人的な関係性の中で成長する霊性)が手薄。
もしくは、活動そのものを伝道だと勘違いして、各個人の霊性、心のケアをしない。牧者がそのための方法、霊的形成や、成長につながる関係性の構築をしない(出来ない)ので、信仰者は疲れるだけで、魂は飢え乾いている。
しかし、牧師は熱心に活動しているので、伝道活動は出来ていると思っている。実際は、肝心なことが出来ていない。
教会の伝道活動が成長していく、とは、この本の観点から言うと、関係性の構築を進め、深めていくことです。
関係性の中で、人々を神への信仰に導いていくことです。
表の内側の、「牧会ケア」「牧会カウンセリング」「霊的指導(霊的形成)」の理解がとても曖昧で、認識も希薄なことが、日本の霊性の閉塞感、教会活動の停滞を招いているのではないかと思います。
関係性を無視、作ろうとしない牧会は、人々の心を壊します。機能不全の家族と一緒です。親しいはずの「家族」という共同体の中で、愛情とつながりを求めることを拒絶されます。それが当たり前だ、と牧師は主張し続ける。関係性を持たずに、伝道に熱心になれ、と。愛情は与えないが、これが家族だ、受け入れろ、と言っているようなものです。
羊たちは、伝道のための労働力ではありません。信じてからのケアを、ちゃんとしてあげましょう。
釣った魚に餌を与えないスタイルの教会が多いです。