バターを塗る理由

富夫さん(夫)「バター塗り過ぎだよ。健康に悪いよ、早死にしたいの?」
「いいや、Of course not(もちろん死にたかない)」
朝の会話。
パンにバターを塗りすぎる私の癖。
「パンを食べてるのか、バターを食べてるのか分からないよ!」って、誰から言われたんだったかな。
とにかく昔から、沢山バターを塗ってパンを食べるのが好きだった。
単に美味しいから、別に他で悪食しているわけでなし、ちょっと塗りすぎても問題は無いだろうと思っていた。
同日、セッション中。ある人との会話。親の食習慣が気になると。いくつかの質問をした後、相手の方が思い出したように言った。
「あぁ、そういえば、祖父母の家に行ったときに、同じような食生活をしていました。だから父も同じような食事を好むのでしょうね。」
「どのような理由で、そうなっているのか、聞いてみると面白いでしょうね。」
と自分で言った瞬間に回路が一遍につながった。
私がバターを沢山つける理由
何度も、思い出していた光景が思い浮かんだ。
空っぽの冷蔵庫、ひもじい。お腹が空いた。
冷蔵庫にバターだけがあった。お腹が空いていたので、バターを食べていた。
(後で改めてこの光景を思い出してみたが、冷蔵庫の最下段、奥のほうが見えていて、背が低い、子供の頃の記憶だということに改めて気がついた。)
セッション後、台所にいた富夫さんのところに行った。
「富夫さん、聞いてもらいたいことがあります。聞いてもらえますか。」
「なに?」
「私がバターを沢山付ける理由が分かった。」
「へぇ」
「小さい頃、家に食べ物が無かった。ずっと、時々思い出す光景があった。でも、それが何なのか、何の意味があるのか全く分からなくて、思い出していたのに気に留めることがなかった。
冷蔵庫が空っぽだった。小さい頃ずっとお腹が空いていて、母はあまり家事をする人ではなかったし、料理も下手で…。それで食べ物を探していたら、冷蔵庫にバターだけはあった。
それで、バターが美味しくて、バターを食べてた。
バターがあったら、楽しいような、嬉しいような気がして、それでバターを沢山付けていたことが分かった。バターがあったら幸せだったから。それでバターを、バターが欲しくて…。」
富夫さんが悲しそうな顔をした。
「もう、たくさん付けないで。大丈夫だから。」
「分かりました。理解できたような気がします。でもその、もし私がバターを塗りすぎていたら、思い出させてもらえるかな。もうバターを沢山塗らなくても、大丈夫、もう幸せだということを。」
バター滴る食パンは、これから食べることは出来なさそうだけど、私にはもう、バターを沢山塗る必要がないようだ。