先生と私の最後の日 2 – 帰ってきた

1年ぶりに日本に帰ってきた。何だか3日くらい離れていただけのような気がする。

心ある教会員の方が、病院の近くに宿泊先を提供して下さった。
病院まで車で乗せて行ってもらった。
ナースステーションの前の病室を通り過ぎたとき、教会員のKさんの娘さんがちらっと、一つの病室を覗き、私の顔を見た。

そこには良く見る、衰弱したお年寄りが横になっていた。

「?」

先生は大丈夫だろうか…、頭はそのことで一杯だった。

受付で面談者の紙に記入すると、教会員の方は今来た通路を少し戻って、先ほどのナースステーションの前の部屋に入っていった。

先ほど見た、痩せこけたご老人、が先生だった。

分からなかった…。

「K先生、具合はどうですか。今日はすごいお客様が来ていますよ…!」

Kさんが私のために場所を譲ってくれた。

「…先生、池田です。アメリカから、帰ってきました。先生の具合が悪いと聞いて…。」

先生は一生懸命何を話しているのか聞き取ろうと頑張ってくださったけれども、私の声は良く聞こえないようだった。
Kさんが反対側の枕元に周って、もう一度話しかけた。

「池田先生です、先生、アメリカから、先生に会いに帰ってきました!」

「…あら…!」

ほとんど見えないのだろう、でも先生はその目を大きくして宙を仰いだ。

「池田さん?」

「はい…!」

「あら、まぁ…一体どうやって、帰ってくるのは、すごくお金がかかると聞いていたから、私の事、伝えなくていいわと言っていたのよ。」

「神さまが、安いチケットを下さいました、だから、先生、心配されないで下さい。」

「あら、まぁ、嬉しいわ。よかった。」

「はい、私もです。あ、Kさんの娘さんも来られていますよ。」

面談は15分までと決められていると聞いていた。
余りにもお見舞いの人が多く、少し前に入っていた老人ホームから、お見舞いを控えるようにと注意が出ているとのことだ。
よかった…なんにしても、生きて再び再開することが出来た。意識があるうちに…。

15分はあっという間に過ぎた。
私はちょうど2か月間の学内でのアルバイトが終わり、まだ夏休みだったので、しばらく滞在するつもりで帰ってきた。

「先生、先生に何とかお会いすることが出来て、ひとまず安心しました。先生を疲れさせてしまうといけないので、今日はこの辺りで帰ります。」

先生は驚いたように、何か言おうとした。恐らくこのまま、私がまた旅立ってしまうと思われたのだろう。

「大丈夫です、先生、しばらくここに滞在する予定で帰ってきました。Kさんが、沢山助けてくださいます。大丈夫です、また明日きます。」
と言うと、「暫くこの辺りにいるのね?そう、分かったわ。あなたも忙しいでしょうから、私のところはいいのよ。」と言われた。

「なにも用事はありません。先生に会うために帰ってきたんですから、時間はたっぷりあります。」と言うと

「えぇ、そうなの?」と言って少し笑われた。

それから病院を後にして、Kさんと、Kさんの娘さんと軽食を食べた。

Kさんとは神学生の時から10年来の知り合いになってしまった。こんな風にお世話になる日が来るとは、なんとなく、この日が来ることを予想して、神学校を卒業したときに、K先生に何かがあったら教えていただけませんか、とお願いして6年が経っていた。
今回は娘さんと会うことも出来て、とても嬉しかった。

Kさんと娘さんから、K先生の最近の様子を教えていただいた。

つい1カ月前まで、いつもと変わらず元気にされていたそうだが、数週間前に続けて転倒され、急激に弱ってこられたとのことだった。

私も数週間に1度は連絡を取っていたが、入院されてからはある先生のご協力で、その先生がお見舞いに行かれる時だけ、電話で話すという具合になっていた。