怒りの化物 ーライオンさんの記念碑 32
大学に行く時、
マンションの階段からいつもライオンさんが見送ってくれた。
バス停から、マンションの外階段が見えていて、タバコを吸いに出てくるライオンさんが
いつも、私がバスに乗るまで見守ってくれた。
バスに乗ったら、窓側の席に座って、ライオンさんが見えなくなるまで手を振った。
嬉しくて、嬉しくて、いつも感謝してた。
なんて幸せなんだろうって。自分にはもったいなさすぎる幸せだって。
階段の風景を思い出すことが出来る。
でも、ライオンさんはいない。
ライオンさんはいない。
同じ風景なのに。
あの階段から…………………..
……………………..
ライオンさんは飛び降りた。
……………………………
ライオンさんの葬儀が終わって、暫く経ってから書いた記事がある(⇒「壊れた時計」)。
心のなかに、何か開けてはいけない部屋があって、そこに怖い怪物が座っている、
じっとしているのだが、絶対に触れてはいけない何かが……..。
ずっと、人からアドバイスをもらったり、スピリチュアルフォーメーションのクラスで自分の霊的な状況の課題を書かされたり、カウンセリングのクラスが始まったりして、どこかで止まってしまった時、…感情の時を辿っている。
授業の時に、なぜか涙が出てきて、気づかれないように拭いながらパソコンに向かっている。
どうして人付き合いを避けるか、人間関係を避けるようになったか、ぶっきらぼうな態度を取るのか、周りをシャットダウンするのか、イライラするのか、死んだ魚のような目で動き回っているのか…。
触れられたら、壊れそうだからだ。
人の前で泣きたくないし、触れられたら狂気のような怒りが出て来る。
怒りを周りにぶつけないために、人から逃げるようになった。
痛みを感じられる余地がない。痛みが強すぎて。
スピリチュアル・フォーメーションの技術を使って、そして、これまで培ってきた神さまとの関係をたよりに、
姿を表そうとしない何かを探す。
それは…………「触るな!!!!!!!!」と叫んでいる。
近づこうとすると、恐ろしい怒りと狂気を見せる。
教理の授業で、哲学科の学生さんが、ある教父の教理を説明するのに、こう教えてくれた。
「この教父の理論によると、罪というものは存在しない。善の不在があるだけなんだ。
僕が地面から土をどける。するとそこに穴が出来る。
でも、穴があるんじゃないんだ。穴は存在しない。土が不在している状態なんだ。
そこに土が不在だということは、もともと何かが存在していることを示す。それが、元々の状態だということなんだ。」
それを聞いた時、何がどう繋がったのか分からないのだが、何かを自分は失わなかったか?ということを思い出した。
失った、不在である感覚に覚えがあった。
不在の感覚の在り処を探した。
不在の感覚を探ろうとすると、それをやめさせようとする何かが表面化してくる。
怒りだった。何か叫んでいる。「やめろ!!!!!」と言っている。
一体何をやめろと言っているのか、不在の感覚と、怒りと、「やめろ!!!!!」と叫んでいる状況…………..。すごい勢いで何もかも閉ざして、閉じこもろうとしている、その必死さ。
思い出した。ライオンさんのことに繋がった。あの、「壊れた時計」の時だ。
急いで、心の中のライオンさんのセクションへ急ぐ(なんだか抽象的なのですが、心の中の様子を表すと、こんな感じです)。
真っ暗で、ずっと来ないままだった。埃臭くて、でも、確かに近づけば近づくほど怒りが激しく、抵抗が強くなっていた。
蜘蛛の巣がかかったような、暗い部屋で、怒りが「近づくな!!!!!!!!!」と大暴れしていた。それはでも、なんだか、大事な人たちを傷つけたくないから、近付かないで欲しい、という叫びも混じっていた。
「どうした?」と聞いても、とにかく怒り狂っていて、どうにもならない。
でも、何かを言っている。
「価値なんか、確認したくないんだよ、どうしてライオンさんは死んじゃったんだ、
自分が、だめだったからだ、自分が、自分に価値が無いからだ!!!!!!!!!!!」
と言っていた。
「そうじゃないだろ」と言うと、
「うるさい、黙れ、殺してやる、どこかに行け!!!!!!」と、とにかくうるさい。でも、じっとしていると、
「触るな!!!何も聞きたくない、感じたくない、見たくない、知りたくない、死んじゃえばいいんだ!!!!!」と言った。
その時に、姿が見えた。感情だった。
「やぁ、久しぶり」というと、表情をひきつらせた。
怒りは、恐怖であり、痛みを怖がって、痛みを避けるために、怒りで防衛しようとしていることが分かった。
「何が怖いって?」と聞いた。
「何が怖いんだ?」と聞いても、なかなか本人も分かっていないようで、相変わらず叫んでいたが、しばらくして
「感じるのが……」と言った。「感じるのが………怖い」と言った。
「ライオンさん、どこ、ライオンさん、どこ、ライオンさんどこ、
あそこから飛び降りたの?私を…….見送っていてくれたあのところから飛び降りたの…………………………..
ライオンさん、どこ、ライオンさん、どこ、ライオンさん、ライオンさん、ライオンさん、ライオンさん!!!!ライオンさん………………………………………..ライオンさん
お父さん、お父さん!!!!!!」
この時点で、感情をシャットダウンしたのが分かった。
感じたくない、と言ったのは、悲しみだった。
悲しみを感じたくない、多すぎる、だから、何も感じないようにした。昔のように。そのほうが、痛みが少ない。
相変わらず、感情の方は荒れ狂っていた。
「やめろ、触るなあ!!!!!」と叫びまくっている。
「思い出すな、感じるな、聞きたくない、見たくない、感じたくない、なにも、なにも、なにもなにも!!!!!」と言って、泣いていた。
正体がばれたのが、よっぽどダメージだったのか、そのうち声は疲れ果てたように弱りきってきた。
神さまがなんとか、回復させようとして、価値を確認させようとしているのだけれども、それを取ろうとしない。
声が言った。
「私は、違うんだ、そんなんじゃないんだ
私は、価値があるの
やめて、思い出させないで
そんなんじゃないんだ。」
「それお前のアイデンティティじゃない。わたしが与えたアイデンティティにしなさい。」
「いやだ、そっちにしたら、痛い。なんで。感じないほうが良いんだ。そっちは、痛すぎる。」
ここからまだ暴れる力が残っているみたいで、怒って近づけない。
「私がかかわらないといけない理由なんて分からない。
私がそんなことしなくたっていい、どうして私のことが理解される必要があるんだ、
ほっといてくれほっといてくれほっといてくれ!!」とじたばたもがいている。
「君がいなくなったら、みんな止まってしまった。
なにもかも、うまくいかなくなった。それは、一体、どういうことなんだろう…。」
と言ったら、化物はっとして、砂が消えてなくなるみたいに、消えてしまった。
気がつくと、暗かった部屋の窓が開いていて、明るくなっていた。
風が吹いてきて、カーテンを揺らしており、部屋の隅で感情がやつれ果ててうずくまっていた。
「おかえり」と言った。
関連ページ⇒ 大切な人が自死した時-ライオンさんの記念碑


